ネタバレあります。
201.ラヴィアンローズ 村山由佳
『咲季子は両親から引き継いだ家の庭で丹精込めてバラを育てている。フラワーアレンジメントの教室も開き、カリスマ主婦とも呼ばれていた。
しかし、夫には終始支配され窮屈な生活、それでも事を荒立てずに暮らすことで納得していた。
しかし本の出版をきっかけに知り合った堂本との恋に溺れて変わっていく』
読みやすくてサクサク読めました。最後はサスペンス風で緊張感もあり人間の心の複雑さが上手に描かれ読み応えがありました。
不倫の物語ですが、咲季子を責める気にはなれませんでした。なにしろ酷い夫でしたから。あんな風に蔑まれ続ければ、刷り込まれて自分に自信がなくなるのはわかるような気がします。
でもどうして今までこんな夫と一緒に?結婚前は秘書として仕事もしていて浮き世離れしているお嬢様とも思えないのですが。彼女としてはバラにありったけの愛情を捧げられる毎日に満足していたんでしょうか。
堂本によって自分の価値や心の自由を知って、彼との恋に身を焦がすのも理解出来ます。でも堂本も誠実な男ではなかった。咲季子の気持ちを思うといたたまれないです。
彼女にとって堂本との初めての口づけが人生の宝という気持ちが切ないです。
202.spring 恩田陸
8歳でバレエと出会い、やがて振付家となる天才「萬春(よろず・はる)」の物語です。丸ごと一冊、天才・春を描いた作品。
彼の近くにいた人により語られる春の天才ぶりと成長が描かれていきます。ドキュメンタリーのようにも感じました。
①容姿も含めダンサーとして人を惹きつける春の魅力〜②春の知性、感性、客観性が磨かれた源〜③春の振付師としての才能と情熱〜④最後に春本人が語る葛藤、真実・・という流れで描かれていきます。
思っていたような展開ではなく、躍動感もなければ高揚感も湧かず、春が天才を超えるような天才だけに身近にも感じられず、序盤はただ「ふ〜ん」という感じでした。
恩田陸と言えば「蜜蜂と遠雷」のキラキラ感や感動がいまだ心に残っているので余計でした。
そんな出だしだったのですが、なぜか丁寧に読みたいと思いました。
読み進むうちに最初は輪郭だけだった春に内面の厚みが加わり、そして天才ならではの苦悩や努力を知り、プライベートの秘密を知り・・だんだんと立体的に一人の人間としてイメージ出来上がっていきます。
私の頭の中にいる漫画の中の美少年がだんだん血の通う、体温も感じられる人間となっていく・・その過程はワクワクするものでした。
私は叔父さんの稔が語る2章、春の内面を形作った物語が好きです。ちょっと不思議な少年・春を理解し包みこんでくれたこの叔父さんがいたからこその春でした。
春が求めていたのはバレエの技術や成功だけでなく深い芸術性、それが全章通してキチンと表現されていて彼への理解も深まりました。
作中にはバレエの専門用語や幅広い音楽の知識が出てきます。私もバレエや音楽に精通していればもっと面白く、もっと感動出来るのだろうか?と少し悔しい気持ちになりました。
出だしの不安を申し訳なく思うほどの読後の満足感でした。左ページのパラパラ漫画も面白かった。何を踊っているんでしょう?

203.機械仕掛けの太陽 知念実希人
コロナ禍の医療従事者の戦いを描いた物語。「機械仕掛けの太陽」とはコロナウイルスのことでした。
著者が現役医師ということもあって、専門的な知識なども盛り込みつつ臨場感あふれる作品でした。ウイルスについても詳しく知ることが出来て面白かったです。
医療現場の奮闘、苦悩、葛藤、恐怖、使命感が直に伝わって圧倒されました。とてもリアルです。
コロナと言えばずいぶん前のことのようですが、ほんの数年前のこと。当時を思い返すと本当に異常な世界でした。
読みながら、あの頃をもう一度体験しているようでした。そして医療従事者の苦労、疲弊はわかっているつもりでしたが、これほどまでとは・・。
当時ニュースなどで報道された内容も描かれていて、ドキュメンタリーと錯覚しそうでした。どこからどこまでがフィクションなのか、ノンフィクションなのかわからなくなるようなこともあり、この点は少し気になりました。
難しい内容も取り扱っていながら理解しやすく、読み応えのある力作でした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。