ネタバレあります。
216.スピノザの診察室 夏川草介
『雄町哲郎は京都の町中の原田病院で働く内科医で多くの高齢患者を診ている。
かつては大学病院では難しい手術もこなし、将来も期待された実力のある医師だった。しかし、妹の死により当時小学生だった甥を引き取り、拘束時間の長い大学病院を辞め小さな病院に移ったのだ。
原田病院には一癖二癖ある個性的な医師たち、そして様々な事情を抱えた患者たちがいた。雄町は真摯に患者に向き合い、患者の思いを尊重し、そして寄り添う』
とても良かったです。くすっと笑えるところもありって楽しくサラリと読めるのですが、奥が深いです。そして身近なエピソードでリアル感もあり、共感出来るところがたくさんありました。
スピノザって哲学者の名前なんですね、知らなかった。でもなぜ題名に?と思いました。
マイペースでひょうひょうとした感じのマチ先生(雄町)が実に頼もしかったです。最後の章はそれまでと少し違って緊張感あふれる内容、マチ先生の実力も発揮されスカッとしました。
胸に刻みたい言葉もたくさん。そういう言葉を噛みしめると、これが哲学なのかな?と思ったり・・涙もこぼれたり。
「技術には人の悲しみを克服する力はない」「私たちにできることは・・暗闇で凍える隣人に、外套をかけてあげること」
治せない病気もある・・でも出来ることがあるはず。どうしたらその人にとって一番いいのかは難しい問題ですが、諦めずに逃げずに思案し続けることが患者のためになるのかなと思います。
患者の心に「安心」を提供したいという病院長の理念も素晴らしかった。
医療中心のストーリーではあるのですが、それだけではなくもう一つおおきな魅力がありました。時々登場する京都の行事や銘菓です。
甘党のマチ先生曰く、「死ぬまでに食べておくべき3つ」は「矢来餅(やきもち)」「阿闍梨餅(あじゃりもち)」「長五郎餅(ちょうごろうもち)」だそうです。
私が一番気になったお菓子は緑寿庵清水の金平糖。お取り寄せしちゃおうか・・と思ったら銀座にお店が。でもやっぱり本店で買いたいなぁ。
医療現場でのストーリーは辛く考えさせられることも多かったですが、お菓子の名前が出てくると気分も変わって、そういう構成も読みやすさに繋がっていました。
甥っ子とのやり取りも心和みます。
読後感はとても気持ちの良いものでした。

217.雪の香り 塩田武士
『恭介は学生時代に出会った雪乃と一緒に暮らすことになり、やがて愛し合うようになる。しかし、ある日突然雪乃はいなくなってしまった。
12年後、新聞記者になった恭介はある日刑事から事件の情報を得るが、そのメモには雪乃の名前があった。
彼女が犯罪に加担しているのか?と動揺する恭介。実は二人は再会し雪乃は今、恭介の部屋にいたのだ』
ミステリー感もありますが、恭介と雪乃のロマンスが多く描かれているので恋愛小説といえるでしょう。
この物語では雪乃の魅力が重要ポイントのような気がしますが、私は出だしから雪乃のことを好きになれず、どうして恭介がここまでこの人に気持ちが引きずられているのかも理解出来ませんでした。
恭介の雪乃に対する底なしの不安や焦りは伝わってきて、切なさも優しさも感じました。
雪乃に魅力を感じられるか?というのがポイントかなと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございます。